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(情報企画部員参加レポート)

シンポジウム

「地域とともにある学校づくりと学校事務」

      シンポジスト
 

名城大学大学院教授 大学・学校づくり研究科長 木岡一明氏

兵庫教育大学大学院教授 教育行政能力育成カリキュラム開発室長 日渡円氏

愛知県小中学校長会副会長(岡崎市立井田小学校長) 岡田豊氏

      コーディネーター
 

文部科学省初等中等教育局参事官付運営支援推進係長 風岡治氏

 

シンポジウム写真1

 県大会最後の日程として、3名のシンポジストをお迎えし、「地域とともにある学校づくりと学校事務」をテーマにシンポジウムが行われました。

 シンポジウムの冒頭では、まずコーディネーターの風岡氏より、文部科学省の目指す「地域とともにある学校づくり」についての確認として、「学校のことは学校自身が地域住民や保護者の意向をふまえて決定することを原則に、地域の意見や力を学校運営に生かしていくことが大切である。また、いじめを始めとする生徒指導上の諸課題、あるいは学力の向上といった学校が抱えるさまざまな課題を、学校・家庭・地域の協力の下で解決していくためにも、地域とともにある学校づくりを進めていくことが重要である」と示していただきました。

 その後、シンポジストのお三方より、自己紹介を兼ねて「地域とともにある学校づくりと学校事務」について、それぞれお話をいただきました。

 木岡氏からは、午前中の基調講演を補足していく形で、お話をいただきました。小中学校はその設立の経緯から本来土着性を持っていたが、近年の人口減による学校の統廃合、高校進学率の上昇などの要因により、特に中学校は地域から浮遊しており、土着性をどう回復していくかが問われていること。また、大震災を契機に、地域の再生をしていくためには、その土地に住み続ける人をどう育成していくのか、ということが問われていること。の2点を問題として挙げられました。こうした考えをもって、「地域とともにある学校づくりの方策」の議論に参加し、これからの学校づくりを地域とのつながりも含めて考えたときに、学校事務職員の果たす機能は大きいと思ったとのことでした。

 というのは、今後教員の年齢構成を考えた時に、教頭登用年齢は10歳若返り、マネジメント力を校長、教頭、教務主任、校務主任のいわゆる四役だけでは維持できなくなってくるという様子が見て取れ、一人のマネジメント力ではなく、いかにチームとしてのマネジメント力を構想していくのかが問われていくとのことでした。となると、そのチームに加わるメンバーは多い方が良く、四役プラス学校事務職員、さらに研究主任といったメンバーによるマネジメントチームで学校づくりを牽引していくという構想をもって、総合的なマネジメント力という中に、学校事務職員も入るという流れがあるとのことでした。

 しかし、チームの一員たり得るのかということは別問題で、今、学校事務職員という立場だからチームに入るというような意識では駄目で、いろいろな職があることで学校経営は成り立っているのであり、お互いの職がどのようなマネジメントを構想し、どう分担し合い、相乗的な効果を発揮していくのかという議論をしなければ現実の問題にはなっていかないとのことです。そろそろ、学校事務職員だけで語るのではなく「もう一歩前へ」進めていく必要があるのではないか。学校事務職員だけが参加する県大会等におけるこうした議論に関して厳しいお言葉もいただきました。

 次に日渡氏からは、教員の資質向上特別部会基本制度ワーキンググループ委員として答申をまとめられた経緯から、地域とともにある学校づくりに必要となる学校事務職員のキャリア形成についてお話をいただきました。

 教育界では学校の自主性・自律性を基盤とした多様性・個性の教育をしていくという流れがあり、それに伴い、キャリア形成における目標も、従来の画一・横並び・一律・一斉・指示・命令という価値観から、多様性・個性・特色づくりという価値観へと変わってきている、と述べられました。それにも関わらず、学校事務職員及び全ての教職員は、いまだに従来の価値観に基づくキャリア形成を目指してしまっているとのことでした。全体提案でのスマイルプランの発表にも、新しい価値観に基づいている部分もあるが、古い部分も紛れていると指摘されました。学校の自主性・自律性を確立するためには学校事務機能を見直すことが必要であるとして出てきた共同実施という言葉も、学校事務職員の中で語られている共同実施ではその大切な新しい価値観が忘れられているという指摘でした。原点に戻って、学校事務という機能を通じて学校の自主性・自律性のために寄与するという方向にもっていくと良い、そしてキャリア形成の目標を大きく転換する時期であり、一歩踏み出す必要がある、とのことでした。

シンポジウム写真2

 岡田氏からは、3月まで勤めていらした岡崎市立南中学校での、南中溌剌太鼓、南中サミット、南中劇の三本柱をはじめとした実践が紹介されました。

 チーム・ザ・南中を掲げ、そのチームの中で教職員を適材適所に配置し、一人一人がどういう位置でどういう役割を持って取り組むことができるかということをしっかりと自覚させ、その上で、自分のやっていることが学校づくりに必ず結びついているんだという実感を持って仕事ができるように考えていたそうです。給料分の仕事をしているだけでは駄目で、プラスアルファの仕事が学校を変えていくということを話されました。

 続いて、スマイルプランの推進に向けての課題や将来への期待や不安について、会場の参加者からの問題提起を基に議論が進められました。

 問題提起としては、第2部及び第3部で提案・報告を行った県事研専門部員と支部の方を中心に、以下のようなものが出されました。

  • 少経験者は、3torのうちのファシリテーターとしての役割をどうやって果たしていったらいいのか?(研究部)
  • 自主研修体系9次案の狙いを実現していくために、県や市区町村、それぞれの事務職員会などと研修体系の共有や協力態勢を取っていく上でのよい手立ては?(研修部)
  • 支部内の市によってキャリア形成のイメージが違っていることや、教員に比べはっきりとしていない学校事務職員の人材育成について不安に感じている。(愛日支部)
  • 地域との連携が重要であるのはわかるが、学校事務職員がどのように関わっていくのか。組織化と地域連携をどう考えていくのか。(東三河支部)

シンポジウム写真3

 こうした意見に対し、岡田氏からは、「あいちの教育に関するアクションプラン」策定に携わられた経験から、今後の学校は、家庭・地域・学校の協働による教育の推進を柱に据え、学校自らが、地域・家庭との関わりを密接なものとしていく努力をしていかなければならない。そして今山積している問題のほとんどは、その実現によって解決すると期待していると今後の学校のあり方についてご助言をいただきました。

 また、研究部からのファシリテーターに関する質問については、学校に来校する人が一番声を掛けやすいのは学校事務職員であり、活力ある学校づくりをしていくために地域連携をしていく中で、常に校長の示すビジョンや教育目標を意識して、学校全てに精通していれば、コーディネーターやファシリテーターの役割を果たしていけるのではないか、と期待の言葉をいただきました。

 木岡氏は、学校事務職員は今の事務だけをしているのであれば滅びゆく職種であり、学校事務職員から動かなければならないと言われました。まずは職員室から出て教室で授業を見て、気付いたことをできることからやっていく、そうした中で教育と繋げて学校事務職員の必要性を納得してもらう、また、中学校区でしっかりと組織力をもって、事務の組織化が学校経営の組織化へステップアップしていく、例えば茨城大会であったIR……情報管理を担っていくなど、いろいろやることは出てくるだろうというお話をいただきました。

 日渡氏からは、学校事務職員のキャリア形成について、今後学校を管理運営するための「学校経営免許」「生徒指導免許」「進路指導免許」「カリキュラム免許」等の専門免許をつくることが考えられており、この中で筆頭の「学校経営免許」は教員に限らず取得できるようになっているとお話しいただきました。これまで学校事務職員が重要だと言ってきた機能・分野の重要性を国が認めたということであるので、自負を持った全国の学校事務職員には取得を目指してほしい。そして、取得した学校事務職員は校長になるかもしれないし、事務長になるかもしれないと、今後の動向をお話しされました。

 また、取得に際し、学校事務職員は教員とは違って免許制度に裏付けられていないため、経営免許を取るまでのプロセスを研修で補完する必要があるとして、学校事務職員研修体系再構築の重要性も語られました。そして、今は学校がもつべき大きな機能の中で学校事務職員の機能が大きく変わってくる時代であり、キャリア・機能についても新しい価値観で見ていかなくてはならない、と意識の転換を促されました。

 そして終わりに、全体のまとめとしてお三方より、具体的なキーワードを挙げながらメッセージをいただきました。

 岡田氏からは、「学校づくりへの参画」「意識改革」のキーワードを挙げられ、スマイルプランを読んだ上で学校事務職員に望むこととして、学校づくりへの関わり方、学校というチームの一員として仕事をするという認識を持ち、教師同様に子どもたちの育ちに貢献する、そういう仕事をしながら、経営的な視点から捉え直してほしいとお話しいただきました。そうした意味で、学校における日々の具体的な教育活動に積極的に関わってほしいとのお言葉をいただきました。

 日渡氏からは、「学校の自主性・自律性」のキーワードを挙げられ、職員一人一人の自主性・自律性が確保されなければならないというお話がありました。今は明治以来140年間続けてきた近代教育からの転換期であり、これからはポスト近代教育へと一歩踏み出さなければならない、そして明治とこれからの学校の違うところは学校事務職員がいることであり、そのことに着目するのは学校事務職員自身ではないのか、とのことでした。

 木岡氏からは、高浜市に関わってこられた経験から、学校づくりには時間がかかること、意識改革は難しいので行動を変えていこうということが話されました。基調講演でも話された「一歩前に」「ちょっとだけ」「まずは試しに」というキーワードを挙げられ、今日聞いた話をもとに、少しでも行動をしてもらいたいとのことでした。

 今回のシンポジウムでは、激励・期待・厳しい意見など、それぞれの立場からいろいろなお話を聞くことができましたが、これからの学校づくりに向けて、学校事務職員も支援ではなく、当事者として地域の人々と共に創るということが求められてきます。学校事務や学校事務職員が学校でどうあるべきか。また、スマイルプランの推進に向けてそれぞれの学校で具体的に実践していくヒントを得ることができました。このシンポジウムで得たことを今後の学校での仕事に生かしていきたいと思います。